MAPPI #2

 MAPPI#2 presented by 全員かかってこい


(プロローグ)

 都心へ向かう地下鉄の車内で3人の遺体が発見された。彼らは皆、貿易業界最王手である大企業『真光商会』の社員であった。遺体はそのどれもが激しく損傷しており、彼らに強い恨みを持つモノの犯行であると予想された。


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 彼の名前はマッピ。31歳、男性。その人生は仄暗く、人よりも少しだけ苦い。物語は、彼の幼少期まで遡る。


 曽祖父の代より貿易業で莫大な財を成した名家に生まれたマッピ。溢れるばかりの愛情を受け、大切に大切に育てられた。

 湯水の如く与えられる最新の玩具や色鮮やかな図鑑は、20畳ある彼の部屋でもすぐに溢れかえり、不要となったそれらを毎日大型トラックが回収する程であった。回収されたそれらは、海を渡り遠くアフリカの子供たちの手に渡った。それら全てにマッピの名前と顔面が刻印されていたことから、一部のコミューンにおいて、マッピは神の如く崇め奉られている。


 それはもう腐るほどの財産を持った上、典型的な意識高い系である両親はマッピを、“自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間に育てること”を目的としたモンテッソーリメソッドを実施する幼稚園に預けた。それに加えて水泳、英会話、ピアノ、ダンス、華道、インド式計算術、柔道など多くの習い事に通わせた結果、マッピは就学前にして平均睡眠時間が4時間を切るという与沢翼的ブチ抜きスケジュールを余儀なくされた。

 が、しかし、超人的なポテンシャルを持つマッピにとっては全く苦ではなかったし、心から楽しいと思える日々であった。


 そんなマッピは、小学校に入学する頃にはこのような考えが、その心に根付いていた。


マッピ『選ばれた非凡人は新たな世の中の成長のためなら、凡人のためにつくられた社会道徳を踏み外す権利がある』

(ドストエフスキー『罪と罰』より)


2.#21


 小学校から高校まで一貫の名門校に入学したマッピ。入学したその瞬間に、自らの能力が特出していることを悟った。学業、スポーツ、芸術、どれをとっても、相手になるような同級生はおろか、先輩、果ては教師に至るまで、マッピの足元にも及ばないのであった。また、口を広げ白目を剥いている間、自在に風を操ることのできるスタンド能力“ファニー・バニー”も、彼だけが持っていた。

 しかし、それを鼻にかけ、ひけらかすようなことは決してしなかった。秀でた存在たることは羨望より遥かに大きな嫉妬を、怒りを、憎しみを産み、自らに刃を向けることを歴史が証明してきたし、そのことをマッピは重々承知していた。

 なのでマッピは敢えて平均より少し上程度の成績をキープし『目立ちはしないものの、そこそこの人気者』としての立ち位置を盤石にしていた。


3.#20


 小学生のマッピ

『遠足楽しみだなぁ。おやつ何持っていく?』/『本当は行きたくありません』

『ヒカキン、面白いよね〜!俺も大好き!』/『YouTuberは全員クソ。馬鹿しか見ん。』

 

中学生のマッピ

『あ!ヤンキーの原先輩だ。こえぇ〜。大人しくしとこ』/『一発でボコやけどね。かかってこいや』

『うわー!原先輩の家、でっかいすね!俺ここに住みたいっすわ』/『あ、これ家か。便所かと思った』


高校生のマッピ

『え〜!お前佐藤さん好きなの?めっちゃ青春じゃん!』/『しかし、恋は罪悪ですよ。わかっていますか』

『うん、俺も佐藤さん可愛いと思う。でも、山本さんの方がタイプかなぁ〜』/『同世代はパス。40歳以上のババアでお願いします』/『僕もババアでお願いします。それか、鬼ギャルで』/『お、鬼ギャルですか?はい、興味あります。』



 そして相変わらず優秀なマッピは、これといって勉強することなく名門ペテルブルク大学の法学部に合格。同じく数人のクラスメイトが同大学を受験したが、合格したのはマッピだけであった。皆がマッピを純粋に労い、褒め称えたが、まぁもう会うこともないだろうし、なんか、お疲れっした!って感じであった。

 晴れて大学生になったマッピは、少し手狭ではあるが4LDKの高層マンションにて念願の一人暮らしを始めた。

 そして、その生活の大半はサークル活動に励んだのであった。手話を用いたダンスで、社会貢献を目的とした福祉系サークル『酒池肉林(アルティメット・フリーダム)』の幹部として、心と心の触れ合いを大切に、共に生きる心の育成を目的に、誰もが平等で、笑顔いっぱいに溢れた日々を、誰にも奪われることのない幸福をetc..

 つまりは、心の底から人生の夏休みを謳歌していた。そんなマッピの心にはいつも、この言葉が居座っていた。


マッピ『ひとつの微細な罪悪は100の善行により償われる』

(ドストエフスキー『罪と罰』より)


4.#19

5.#22


 しかしそんなある日、家業である貿易業で深刻な問題が発生した。

 季節外れの超大型ハリケーンにより、瀬戸内海のど真ん中で転覆したマッピ家所有のコンテナ船はその時、不幸にも偶然、マッピ家の全財産を積載していた。奇跡的に人的被害は無かったものの、マッピ家の資産として残ったのは、たまたまペイペイにチャージしていた三千円のみであった。

 そうとなっては、退学は当然のこと、生命の維持すらもままならない。とりあえずの生活費として、マッピはコンビニエンスストアでアルバイトを始めたのであった。


(接客の寸劇「いらっしゃいませ〜」等。)


(レジにて)

古富『そう言えばマッピさんって学生でしたよね』

マッピ『あ、はい、一応』

古富『へ〜どこ大なんですか?』

マッピ『ペテルブルク大学の法学部ですね』

古富『ほー!インテリっすね。スゲェなぁ』

マッピ『いやいや。え?先輩はどこっすか?』

古富『あ、僕?僕は大学には行ってないんだ』

(マッピ、食い気味でジョーカー風に笑いだす。)

古富『大学に行ってないのって、そんなに面白いですか?』

(マッピ、否定のジェスチャーしながらも笑い続ける)

古富『も、もういいです』


(マッピ、しばらく笑い続けた後、真顔になる。)


マッピ「 I wonder that What is Justice ?What is crime and punishment ? and so  What is god?(正義とは、罪と罰とは、神とは何なのだろうか。)』


運命の歯車が廻る。都心へと向かう、地下鉄に乗り込んだ。導かれるように。闇に浮かんだ篝火に引き寄せられる夜光虫のように。


6.#1

 かくして、マッピはその手で人を、殺めたのであった。彼は極めて落ち着いていた。彼の犯行を裏付ける証拠は何一つ無い。彼が容疑者となることすら無いだろう。誰も、彼を裁くことは出来ないのである。ただ一人、自分自身を除いて。



マッピ『ずっと、ずっと考えていた。僕は幸せだったのかな。』

古富『虚空に問いかけた。あれから、どれだけの歳月が流れただろう。』

マッピ『朽ちていく絵画の、凝固した塗料が空を彷徨う』

古富『煤に塗れた門柱は、宛先不明の祈りをトレースしていた。』

マッピ『混沌を泳いだ。揺らめきの果て、掌から零れ落ちたそれは』

古富『それは』

マッピ『それは』


fin.


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