客と揉めた話 intro/#1 デモ機のトラブル

 

intro/

　社会人8年目の私は何を隠そう、頻繁に客と揉める。これまで何人もの客をブチ切れさせた私が、自戒も込めてその顛末をここに公開することにした。




#1 デモ機のトラブル




 　2年くらい前のこと。

　S工業/社長N氏。60代男性。地方の零細企業。だが、上場レベルの大企業で自分はカリスマ経営者と勘違いしている痛い社長。山口にはこの類の社長は結構いて、大概は２代目/3代目。工業高校卒。N氏の口癖は『世界』。自分語りが好きで、１時間は軽く話し続ける。




　ある日、穴あけ用の工具A(12万くらい)のデモ機を依頼される。N氏曰く『工具Aの一部を改造して、狭いところでも使えるようにしたい。それが実際に可能かどうかを、デモ機でサイズ感を確かめてから、購入する』とのこと。

　眠てぇこと言ってんじゃねぇ。大企業気取ってんなら買えや、そんくらい。とは思ったが、私は営業マン。グッと堪え、笑顔で対応に乗り出した。




　しかしデモ機の貸し出し元である、メーカーに相談するも『そんな雑魚会社に、わざわざ貸し出しは出来ない。』とのことで頓挫。それをオブラートに伝え、デモ機の相談は辞退し、購入を提案する。というのがスタンダードな営業マンの仕事。

　だが、私は一味違う。自社における工具Aの販売履歴より、同業種の別のユーザーから、それを又貸しすることを考えつく。これぞオルタナティブブロック。色々と当たった結果、心優しいお客様F氏から当日中に返却することを条件に、工具Aを借りることができた。たったの12万でも、最大限の対応をする。それが必ずいずれ1000万の案件に繋がるのだから。これが私の“やり方”ってやつ。

　ようやっと手配できた工具AをN氏の元へ持っていく。遠方のため、高速道路を使っても１時間半を要する。往復３時間。くそダリィ。でも、こんな苦労が、いずれは大きな成果を生み出すって訳でね（２回目）。

　F氏から借りた旨を伝えつつ、私はいかにも『私、御社の為に精一杯頑張りましたよ』な表情で工具Aを手渡した。と、N氏は感謝の言葉もないまま、あろうことか工具Aの分解を始めたのだった。




　いやいやいや！！ダメでしょ！！借り物って言ってんじゃん！！

　戸惑いながら注意するもののN氏は『元に戻すから大丈夫！』の一点張り。あー、これはこの作戦、ミスったなぁ、、N氏のモラル計算に入れてなかったわ、、F氏には絶対に黙っておかなければ。ハラハラしながらも見守る私。




　『よしよし、これなら狭いところでも使えるぞ！』

　あ、使えるんだな。それならまぁ、別のお客様から借りてまでしてこんな所まで来た甲斐があるってもんで、、




　『レンタルするわ！！』




　・・・は？？たったの12万の工具をレンタル？？こっちは、わざわざ持ってきてやってんのに？？あまりの衝撃に狼狽えながらも話を聞くと、そもそもレンタルするつもりだったとのこと。それも、ウチではなく他社で。じゃあウチに相談しねぇで、最初からレンタルしろや！！！と、普通の営業マンであれば心の中でそう叫ぶだろう。が、私は一味違う。




　「じゃあ最初からレンタルしてくださいよ。もう御社には何も持ってきませんわ。」

　そう吐き捨てて会社を出て行った。こっちがキレることは予想外だったのだろう、N氏はポカンとしていた。

　その日の夕方、N氏からウチの所長に入電。『古富は態度が悪いから、もう来させるな』とのこと。こっちのセリフじゃ！！誰が行くか！ボケが！！！




　さらに、あろうことかN氏は工具Aの注文書を寄越してきた。それはまさに、自己正当化、辻褄合わせのムーヴに他ならない。『本当は買うつもりだったけど、古富には“レンタルする”という冗談が通じなかった』というストーリーをでっち上げるための。

　その時になって本当のストーリー（本当は買うつもりのないことを隠して、デモ機を依頼したこと。それをつい言ってしまってキレられた）が、業界内に知られることを恐れたのだろう。恥知らずで、想像力のない男だ全く。あ〜今思い出しても気分わりぃ〜。勿論、これ以降一度も行っていないし、これからも絶対行かない。




　この事件から数日後。クソ野郎Nがアホ面で鼻水垂らしながらせっせと工具Aを改造している頃、なんとまさに“狭いところで使う用”としてアップデートされた新商品、工具Bの発売が決定した。使い勝手は勿論、工具Bが断然上で価格も安い。

　わざわざ工具Aを買って改造する、なんざバカのすること。メリットなし。時間と金の無駄。そんな工具Bの発売をNが知った時、一体どんな顔したんだろうなぁ。ざまあ！！！