富美山バスケ部物語 大学編#3 -Kさんのケータイ-

 バスケ部の先輩であり、数少ない親友の1人であるKさん。彼は珍しくセパレートケータイを使用していた。いやセパレートケータイって何だよ、って話だろう。あるいは30歳以上であれば、ピンとくるかもしれない。こんな感じだ↓



 上下に分離(セパレート)することができるケータイ。10数年前、臨界点に達したケータイ市場ではコモディティ化を脱するべく、各メーカーが如何に画期的な商品を発明するかで競合し、まさにガラパコス諸島と化していた。これはその、一つの頂点ではなかろうか。そしてKさんの持つそれは、ボロボロであった。


 ボロボロ、というか液晶部分(上半身)が完全に壊れていた。だから、メールは勿論できない。ひたすら、永遠に読むことの出来ないメールが届くだけ。電話も発信できず、着信があったらヤマカンで出る、という具合。また、決まった時間にアラームが鳴るものの、解除できない。たまに電話と思って出てしまう。

 信じられないことにKさんはそんな壊滅的な状態で、2ヶ月くらい使っていたと思う。私なら2日でギブだ。


 『意外とこれでもいけるよ。逆に皆、ケータイに支配されてんじゃないの?』という超然とした態度に私は感心していた。


 しかし、それも徐々に終焉へと向かっていく。


 テンキー部分(下半身)も壊れてしまったのだ。壊れた、というか、上半身との接続が出来なくなってしまった。いや、そもそもメール出来ないわけで、テンキーなんて必要ないでしょう?と思うことだろう。私もそう思い「まぁ今更そっち壊れても、大丈夫でしょ。」とKさんに尋ねた。

 だがしかし、Kさんは神妙な面持ちでこう答えた。


 『いやそれがね、、。充電が、、出来ないんだよ。』


 何ということだろう。

 上半身は、下半身を経由してからでなければ充電が出来ない仕様だったのだ。それも、内蔵電池なので取り出すこともできない。

 そう気がついたときには、Kさんのケータイの命の終わりとは『今の充電が無くなるまで』となっていた。あと何%かも、知る術は無いというのに。


 『ゴキブリってさ、頭が無くなっても暫く生きてるんだよ。でもやっぱり、そのうち死んでしまう。その死因はね、餓死。僕のケータイって今、そんな感じだよね。』


 と、Kさんは笑っていた。もう、笑うしかなかったのだと思う。ケータイとしても、ここまで使ってもらえたのだから、本望だったのでは無いだろうか。次に変えたケータイも、かなり長い期間使っていたなぁ。とにかく、何でも長く、大切に使う人だった。


 飽きっぽく、新しいモノ好きな私は、『iPhoneとiPadとiMac、全部買い替えちゃおっかな!』なんて考えていたが、このエピソードを思い返し、思いとどまることにした。あ、バスケの話全然してないな。

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