富美山バスケ部物語 高校編#3 -独特な顧問-

  高校の時のバスケ部の顧問U先生は、なんというか独特であった。

 運動部の顧問と言えば、教員にとってハズレくじなのかも知れない。特に、そのスポーツが未経験であったり、スポーツ自体が好きでなければ。U先生はバスケ未経験者であったが、バスケは好きなスタンスだった。が、しかし発する言葉は的を射ていない、というか、、


 『ボールはな!壺を持つように持つんぞ!!』

 『バスケは格闘技じゃ!バスケとカッターは格闘技!』


 これね。これは実際に言ったもので、無論類似の迷言は枚挙に遑がない。

 バスケが分からないなりに、根性論的なことしか言わない。と、その方がまだマシで、U先生はきっと、思いついたことをそのまま言葉にしていたのだと思う。とにかく、何かを叫びたい。内容はどうでも良い。“顧問であること”を瞬間的にでも、実感したかったのではないだろうか。


 また退部する部員に対し、やたらシビアだった。

 全員かかってこい、の「なわた」は元バスケ部。ダンスに集中する為に辞めたが『お前、やっぱ!甘えちょるんよ!』と怒鳴られていた。いや、何に?

 一つ下の後輩 Aが勉強の為、辞めると言った。U先生は『そんなんで辞めるやつはのぉ、、勉強も絶対に上手くいかんっちゃ!』と怒鳴っていた。Aは暫くして、学年トップ、慶應A判定を叩き出す。『お前はやれば出来ると思っちょった』とAに微笑みかけるU先生。これもうサイコパスじゃねぇか、と思った。Aはガン無視していた。

 基本スタンスとしては、辞める部員に対し『暴言を吐くも、引き留めはしない』というものだった。やけダメなんよ。

 

 またある日、何を思ったか練習に塩を持ってきた。キッチンペーパーにこんもり盛られた粗塩。『各自、指でとって舐めろ』とのことだった。が、誰がすんだよ、そんなことをよ。 U先生だけがペロペロ舐めていた。それを見た僕たちは、なんか切ない気持ちになった。

 翌日、それを反省してかU先生は『ウォーターサーバーに塩を混入する』ことを思いついた。盛り塩より先に、そっちだろ。しかし、ぶち込んだその量がマズかった。めちゃくちゃに塩辛い。さらにポカリの粉も入っているので、もう、マジでクソ不味い。あと多分だが、健康にもすこぶる悪い。こうして生成された魔の塩ポカリだが、残念なことに殆ど飲まれることなく、排水溝へと流されていったのだった。セツナレンサ。


 最も印象深いのは合宿の時のこと。U先生は、バスケットコートに布団を敷いて寝ていた。昼寝とかじゃなく、夜から朝にかけてのがっつり睡眠。それも、3秒エリア内で。

 今考えても、これはもう完全に異常者でしょ。バスケが好き、とか言うより、冒涜ですらある。意味わかりすぎて、逆に意味わからない、非常に稀有なケースだ。

 ちなみにこの夜、僕たちはお酒を持ち込み、酔っぱらった状態でバスケをした。若気の至りという奴だ。だからもう、みんな全然シュートは入らないし、ロクにパスやドリブルも出来なかった。朦朧とした意識の中、ものすごく笑い、楽しかったのは、なんか覚えている。よくバレなかったなぁ。(いや、見て見ぬ振りしただけだったのかも。)

 で、その数時間後には、おっさんがその場で寝ている訳で。だから僕たちがバスケの女神に嫌われたとしたら、間違いなくこの夜だったのだと思う。


 と、こうして書いているU先生を勿論、尊敬していなかったし、今でもロクでもない顧問だったな、と思っている。しかしすごく面白い人だったなぁとは思う。これって、特別なことだよなぁ。とか、こんだけ腐しといてそれくらいじゃ、チャラになりませんよね。


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