DOGRUN FANCLUB 『轟音転生 -異世界最強オルタナティブロックバンドのビッグマフに転生ワイ。そんなにゲインを回されると、くすぐったいのだが?-』リリースによせて

 


 盟友、DOGRUN FANCLUBが新曲『轟音転生 -異世界最強オルタナティブロックバンドのビッグマフに転生ワイ。そんなにゲインを回されると、くすぐったいのだが?-』をリリースした。彼らの真骨頂である“聴かせる”バラードソングは、これまでの地道に研鑽し積み重ねた音楽性と、SNSからの情報のみで構築された極右思想とがクロスオーバーし、まさに“世代を超えて愛される名曲”へと昇華したのではないだろうか。


 冒頭、クラシックギターのマイルドで心地よいアルペジオが耳をくすぐる。そこへ、リードヴォーカル・JUNの甘く優しい歌声がフェードイン。儚い2つの旋律は、手と手を取り合うように少しずつ混ざり合い、ひとつの『思い出』となる。私はそれを、ずっと前から知っていた。それは沈んでいく夕陽に染められた、君の横顔だった。夜空を彩る花火を見つめる、君の瞳だった。かじかんだ手を温めようと吐いた、君の白い息だった。


 徐々にボルテージが上がっていく楽曲にベース・TOSHIKIの抵抗は同一曲内、つまりは個人主義的な資本主義国家及び村社会、閉鎖的なコミュニティにおける同調圧力、異物排斥への抵抗のメタファーだ。多様性を認めない発言やスタンスを批判することはむしろ本来の意味での多様性と逆のベクトルである事を示唆していると言えるだろう。その先の理論展開として、社会主義や新自由主義に触れていくのが楽しみである。


 中盤におけるギター・TAKKYのソロパートには圧巻。極めて特殊なエフェクターを用いることで、彼のギターはソロパートに移ると5秒間隔で高音から順に弦が切れる。それにも関わらず、いやむしろ音域が制限されることによって表現の領域が拡張しているのだ。メロディアスでエモーショナルな旋律は、弦の破断に応じて加速度的に研ぎ澄まされ、最終的には“夜空”という名の沈黙を奏でた。


 楽曲が聴いている人々の、心の水面を揺らす。それを静観し、ここぞのタイミングで吊り上げんとするはドラムス・KKPだ。曰く『オルタナティブロックとは此れ即ちフィッシングである』。これはまさに乱獲を繰り返すポップソングのカルマがいかに罪悪であるかを意味している。ではそのカルマから魂を救済、浄化するには何をすべきか。それこそがこの楽曲においてKKPが伝えんとするメッセージであり、刻まれたビートの点と点を繋いで浮かび上がる星座に他ならないのだ。


 オーラスのメンバー全員による即興のアカペラは、涙なしで聴くことは困難だった。あらゆる音楽理論を度外視した、原始的であり動物的欲求に忠実な肉声の掛け合い。喉からでも、腹からでもなく、魂で声を張り上げる。声が大きいものが強い。太古の昔から、決まっていることだ。SNSの影響力?フォロワーだの、いいねの数なんかでは断じて無い。大きい声だけが、強い。必死な声に人は耳を傾ける。何が正しいかなんて分からなくていいのだ、きっと。私たちは誰もが皆、オルタナティブロックバンドの、ビッグマフなのだから。


t.frtm a.k.a 富美山混沌核




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