大人になった僕たちは。-M子さんの思い出-

 【小学】

 話は小学生の頃に遡る。僕の出身はかなり田舎で、小学校は全校で50人程度。なので、学年による隔たりはほぼ無く、全校生徒が友達ってな具合だ。

 よく遊んでいた友達の1人に、M子さんという女の子がいた。M子さんは僕の1つ年上。兄と弟がいて、男勝りな性格。兄妹全員、色白で鼻が高く、端正な顔立ちだったと記憶している。主に低学年の頃、何度も家に遊びに行ったし、すごく仲が良かった。楽しかったなぁ。勿論、この時はお互い異性としては全く意識していなかったのだった。


【中学】

 中学は二つの小学校からなる為に、生徒の数は三倍近く増加する。しかしながら、M子さんはその中でもガッチリ、美人としてのポジションを確立していた。年下であり、パッとしない中学時代の僕にとって、M子さんはもう友達なんかではなく、完全に高嶺の花だった。

 それでも一度だけ、偶然だが一緒に下校したことがある。『恋バナしようよ!1年では誰がモテるん?』と、M子さんは肩を軽くぶつけながら僕に問うた。心臓はもうバクバク。僕はとても緊張して、ろくに言葉を発することが出来なかった。


【高校】

 当時僕は、帰路に限り学ランでボタンを1つ外し、シャツを出し、ズボンを捲っていた。怖い先輩に絶対見つからないであろう地点に電車が差し掛かると、そのコーデへとトランスフォームしていたのだ。地元で格好つけたかったので。あ?ええやろ?そのコーデにて、意気揚々と最寄駅に降り立った時、偶然にもM子さんに出会った。M子さんは高校でもやはり、ガッチリ美人だった。

 M子さんの怪訝な視線がイキり散らかした僕に向けられる。あっ、あぅっ、と僕は心の声を漏らす。いや、実際声に出ていたかもしれない。そしてM子さんは僕に、笑顔でこう言った。

『努!かっこえぇけど、まだ早いぞ!』

 くあぁ〜っ、すっ、あぁっ、あっす、、、これは声に出ていた。言葉にならない言葉でしか、反応出来なかった。パッとしない男子高校生に、この『お姉さん的な対応』は刺激が強すぎた。好きになる、とか通り越して、もうなんか崇拝していたと思う。


【2、3年前】

 中学の同窓会にて、友人の1人が唐突に『みんな最近、M子さんからなんか連絡来た?』と問うた。僕がM子さんと話たのは高校の時が最後だ。それ以降は勿論会っていないし、SNS上でも繋がっていない。その場にいた他の友人も似たような感じだった。それがわかると、彼はこう言ったのだった。


 『そうか。M子さん〇〇(某マルチ商法)にドップリハマってるみたいでさ、高校とか中学の同級生に片っ端から勧誘してるみたいだから、気を付けてな。』


 あ!え?そうなるかぁ〜〜。聞けばもう、何人かはM子さんの勧誘によってハマってるみたい。同学年を中心に注意喚起の連絡網が広まっているらしい。幼い頃の友人、思春期のマドンナが、現在はマルチの要注意人物としてブラックリストと化していることに、なんかこう、なんとも言えない気持ちになった。必ずしもマルチが悪い訳では無いけれども、大多数が抵抗を抱くことは確かだし、なんでまたM子さんがあえてそれにハマるのかなぁ、と疑念を抱いた。


【その後】

 勧誘の範囲は同級生から、その両親にまで広がっているらしい。一応、僕はそのことを自分の母親に話した。すると母親は、驚きもない様子でこう答えた。

『あぁM子ちゃんのところはね、もうずっと前からお母さんが〇〇(某マルチ商法)の地区長をしてるんよ。だから、M子ちゃんもしてるんやろうね。家にもお母さんが来て勧誘されたことあるけれど、キッパリ断ってからは2度と勧誘されてないよ。』

 へ〜!!そうゆうことな!!M子さんが何かしらこう、きっかけがあってそっちに行ったんじゃなく、最初から、予め決められていた感じなのな!

 そう、M子さんは変わってなんかいない。楽しかった小学校の思い出も、緊張した中学の帰り道、胸打たれた駅での思い出、その全ては偽物なんかじゃ無いのだ。一つの事実で、マドンナから危険人物へと認識が変わる僕たちは、一体なんだというのだろうか。自分自身に、憤りと愚かさを覚えたのだった。


【その後のその後(現在)】

 ふと、上記のことを思い出し、こうして文章に書き留めた。これから多様性を考える上で、この時感じた憤りや愚かさは忘れてはならないように思う。そして、ちょっと調べたらM子さんのインスタアカウントを簡単に見つけることができた。彼女の投稿には、こんなハッシュタグが付けられていた。


#魔法の粉 #過去は生ゴミ 


マジ??すげぇや。


人気の投稿