人のケータイは見るもんじゃない。

  ふと思い出した、高校生の時のこと。


 当時、僕にはAちゃんという彼女がいた。Aちゃんはアニメ(特にドラゴンボールと名探偵コナン)をこよなく愛する、色白で黒髪ストレートの清楚系。帰宅部ながら、幼少期より空手を習っており、スポーツテストの成績は抜群。授業中は黒縁メガネをかけ、声が可愛い。

 そんな特徴を持つ彼女がクラスのオタク男子から絶大な支持を得ていたのは、当然のことだった。


 特にY君というオタク男子はAちゃんにご執心だった。Y君はガリガリ、長髪癖毛の典型的なオタク。またAちゃんは、オタサーの姫的なメンタリティなので、気兼ねない感じでよくY君とおしゃべりしていた。頻繁にメールをしていたし、時にはY君はAちゃんにアニメのグッズ?とか、プレゼントしていた。

 そのことに関して、『おう、やっとるなぁ』くらいにしか思わなかった僕。なぜかと言うと、Y君をめちゃくちゃ下に見ていたから。『僕はイケてるバスケ部で、Y君はダサいオタク。』なんて、痛々しい勘違いをしていたし、そんな態度をとっても許されるだなんて思ってしまっていた。ホント、嫌なヤツ。


 ある日のこと。その日は年に2度のクラスマッチ。全校生徒がグラウンドや体育館に集まり、空になった教室にいたのは友人3人と僕。『本気でやるとか、ダセェっしょ』とか言いながらチルっていた。自販機で買ったいちごミルクを飲みながら、トランプしたり、ケータイいじったり。ダサい。

 そして僕は、あることを思いついてしまった。


 Y君のケータイ、見てみようぜ。


 Aちゃんと、メールでどんなやりとりをしているか、それまで別に気にしていなかった。しかし、今ここで見れるなら、見てみようかな。で、なんかキツいの送ってたらネタにしよう!なんて軽い気持ちで、僕たちはY君のケータイを開いた。もうホント、100%僕が悪いです。Y君、すみません。そして起動したメールアプリに表示されたのは【Aちゃん】と名付けられた受信フォルダ。


 Aちゃん用の受信フォルダ作っとるでこいつ、、。


 たまげた。このフォルダにはAちゃんからのメールだけが格納されている。自分の彼女でもないのに。というか、僕の彼女なのですが、、。こ、怖い。。見るの、やめようかとも考えたが、今更引くのもなぁ。とりあえず、AちゃんがY君に送ったメールを、2、3日のものから順に見てみることにした。

 内容はやはりアニメのことばかりだったと思う。あと、授業のこととか。僕の名前はでていなかったかなぁ。メールであっても、頻出の絵文字とか文体で、やはり個性が出る。Aちゃんっぽいメールだなぁ、なんて思いながら次々に読み飛ばしていく。ま、こんなもんか、とか持っていたのも束の間。最新の受信メールに辿り着いた時、僕たちは戦慄した。


 『Y君さ、私のこと勘違いしてない??気持ち悪いよ。』


 これだけ。

 え、何??ちょっとちょっとY君、何を送った??そんで、こっから何も受信無いんですけど、、!!?どーしたのよ!!?

 恐る恐る、震える指で僕は送信ボックスを開いた。Y君がAちゃんに送ったメールはこうだ。


 『ねぇねぇ、Aちゃんって、イッたことある??』


 クソワロタ!ド直球やんけ。マジで何の脈絡も無くこの質問ぶつけてんだけど、いきなり性欲爆発したんか??

 これが送られて、Aちゃんから例の返信があった訳だ。相手は女子高生よ?そりゃ、そうなるわ。

 送信時間は深夜。そして翌朝になり、Y君が送っていたメールがこちら。


 『昨日の夜、寝ぼけててあんま覚えてないけど、俺なんか変なこと言った??』

 

 いや、無理無理!!そんなん絶対無理!!挽回不可能どころか、最後に自分自身で息の根止めたやん、これ。勿論それに対するAちゃんからの返信は無し。


 彼女が、見下している相手からゴリゴリに性の対象とされている、、。なんなら言葉によって性的な暴行を受けている。僕だってまだ、彼女の体に触れていないのに。様々な感情が錯綜し、僕は何故だか少しだけ笑い、少しだけ興奮した。


 このことを僕はAちゃんには話さなかった。また、Aちゃんもこのことを僕に話さなかった。その場にいた誰も、口外しなかったし、自分たちの中であっても2度と話題になることすらなかった。きっと、圧倒されていたのだ。教室の隅で、静かに佇むY君の、秘められた生々しい野性に。人間の根源的な欲望。そのカタルシスに。


 つまり人のケータイを見るの、百害あって一利なし。自分の為にも、やめとこうね。そして繰り返すけれどY君、本当にごめん。



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