トラウマ新人研修備忘録⑨決意表明 そして日常へ
席に戻る私を、同期たちはどんな目で見ていただろうか。俯きながら私は、今見たこと、聞いたことが記憶から消えますようにと心から祈っていた。
発表は続く。同期の中で、最もおちゃらけた男ことM。ツーブロックのブランドボーイ。インスタのユーザー名に【official】とか付けたり、山口県民なのに「俺のライフスタイルは福岡/大阪派」って言っちゃてる。薄っぺらーい男こと、M。そんな彼が発表の最中、感極まって泣き出した。すると、その涙は次から次へと伝染、あっという間にその場はテンプレートな青春ドラマのワンシーン。全方位から漏れ聞こえてくる鼻をすする音や喉をしゃくり上げる声の中、感情の無い私はただ茫然とその場に鎮座していた。
同期であり、大学の時からの友達だったKさんも、例に漏れず涙を流しながらの発表。それでも尚、具体的であり実現可能、それも決して簡単ではない絶妙なラインの目標をロジカルに発表していた。私のクソみてぇな発表とは大違い。現在もKさんは会社に残っていて、私が「日本一にする!」と豪語した店舗の副店長をやっている。私の夢、あなたに託します。
Kさん含めた3.4人くらいしか、まともな文章で発表なんて出来ていなかったと思う。それは勿論、知能や技能の問題ではなく、その場の異様な雰囲気に呑まれた結果だ。だから多少強引でも、熱意が伝わればそれでよし。しかしながらその中でも、もうマジで絶望的な発表をした男がいる。S君だ。そう、研修の途中で逃げ出し、最後の方にしれっと戻ってきた、S君。
私たち同期の冷ややかな視線も相まって、S君はきっと極限の緊張状態だったのだと思う。「研修が辛くて」と言ったと思えば(お前ほとんどおらんやったやんけ)「僕は接客に向いていなくて〜」とか「家から会社が遠くて〜」とか、とにかくネガティブな内容を列記していた。そこに「だから、どうするのか」とか「この研修で、それがどう変わったのか」とかは一切なく、「一体こいつは何を喋ってんだろう、、」というクエスチョンマークがその場にいた全員の頭上にハッキリと浮かび上がって見えた。
その合間で挿入されるM部長からの「それで何が言いたいのか?」「どうしてそう思うのか?」といった指摘。それは助け舟のつもりだったのだろうが、S君は尽くそれに乗ることが出来ずに、(むしろより追い込まれて)海底へと沈んで行った。1人2,3分程度の発表だが、嗚咽に塗れ、頻繁にフリーズするS君の発表は、気がつけば20分近く経過していた。すると、それまでその場を支配していた感動的な空気は霧散。枯れ果てた、ではなくスンっと、止まった涙。感動のグランドフィナーレだった筈が、最後の最後で急ブレーキ。本当、やってくれたぜ、S君よ。ただ1人泣きじゃくるS君よ。その後に多分2人くらい発表して、講師の挨拶があって終わったのだろうけども、なんせもう空気的に「早く帰ろうや」だったので、マジで全然覚えていない。
そんな、フワッとした感じで、私たちは日常へと回帰したのであった。