トラウマ新人研修備忘録⑧決意表明

 

 研修のグランドフィナーレはこの、決意表明。研修を通して学んだこと、今後の目標(何を、いつまでに)そのために今から何をするのか、なんてことを一人ずつ発表する。この時に限って、各店舗から店長、副店長が研修会場に集結。無論、彼・彼女らは皆一様に賃金の発生しない休日出勤である。休日に、わざわざ山奥へ出向いて新入社員の決意表明を聞くのである。せっかくの休日に。一般的に見ればとんだ災難だが、この会社で店長などになるような彼・彼女らはもう芯から忠誠を誓っており、これに全く違和感など感じていなかったことだろう。


 さらにはI氏と並び絶大な権力、発言力を持つ統括部長、M氏(50代男性、ツーブロックパーマ)も参戦。彼が青筋たてて怒号を散らすのは日常茶飯事。それだけでなく、会議中に突然泣き出したり、自己陶酔甚だしいポエム(啓発的な内容だが、何が言いたいのかサッパリわからない)を全店宛にFAXしてみたり、『俺は奥さんに向けてホットプレートぶん投げたことがある』という人として恥ずべき過去を、何故か自慢げに話たりしていた。(本当に何故なのだろうか)つまりは、何というかまぁ、そういう人ってことで、社員からはあらゆる意味で非常に恐れられていた。そんな彼の存在で、会場の緊張度はグッと増したのであった。


 合計50人に及ぶ人間の前での発表は、不慣れな人にとっては相当なプレッシャーだ。無論、バンドでブイブイ言わせていた私にとっては、たかが50人なんぞは、なんのこっちゃない。最初の発表者に選ばれたのは私だったと思う。さぁパーティーの始まりだ。意気揚々と登壇−


 ガタガタガタ・・・

 『あれ??膝が震えてる、、しかも、口がめっちゃ乾燥してる。え?何を言うつもりだったんだっけ??』

 何てことだ。私はすごく、すごく緊張していた。


富美山:富美山です!!わ、私は、この研修で〇〇を経験し、それを〜・・・


内容とそれを克服するための努力がどうとか、そんな感じのこと言ったと思う。あまり覚えていない。問題はその次『今後の目標』だ。


 私は(所属店舗)を、日本一の店舗にします!!


 入社一年目、雑用しか能のない富美山が、日本一の店舗にするってよ。は〜い!消えまーす!

 と、ここで、すかさずM氏の指摘が入る。


M氏「日本一の店舗、と言うのは具体的にどんな状態を指し、いつまでにその状態にするのか?」


めちゃくちゃごもっとも。おっしゃる通り。


富美山:私の考える日本一の店舗は、最も売り上げが多く、活気のある店舗です。一年以内にその状態にします。


ハイハイ、これくらいで良いですかね、自分今すぐ跡形もなく爆散しますんで!ほな!


M氏:なるほどのぉ、、。そうゆうことで、いい?F店長〜??

F店長:はぁ。ま、いいんじゃないですか。

M氏:いいってよ。よかったね富美山君。頑張ってください。


 店長は当時の私のボス。50代女性。高飛車風な彼女には、幾度となく叱責された。後に問題を起こし、私の部下(と言うか雑用係)に成り下がるのだが、これはまた別のお話。兎にも角にも、これにて私の発表は終わった訳で。黒歴史が刻まれた瞬間を初めて実感した訳で。


 と、思いの外長くなったので、次回に続きます。次こそ最終回。ではでは。


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