トラウマ新人研修備忘録⑦ 挨拶研修〜こんな社員はいらない〜
本研修、最も過酷なカリキュラム。それがこの挨拶研修。
内容は非常にシンプルで、「接客7大用語」と「社員心得」を日が暮れるまでひたすら叫び続ける訳だが、まぁまずはそれを見て欲しい。
【接客7大用語】
いらっしゃいませ
かしこまりました
恐れ入りますが
少々お待ちください
申し訳ございません
ありがとうございます
またお越しくださいませ
【社会心得】
お客様に喜んでもらえない社員
笑顔で挨拶ができない社員
会社に利益をあげない社員
チームワークを乱す社員
責任感のない社員
約束を守らない社員
こんな社員はいらない
接客7大用語はまだしも、社員心得、ガチヤバじゃない??「こんな社員はいらない」って。大声で「こんな社員はいらない」って何度も何度も叫んでる集団、怖すぎるでしょ。余談ではあるが、色々あってこの社員心得は廃止され、かわりに「社員憲章」なるものが作られた。しかしながら、この社員心得を入社以降何年にも渡って朝夕叫び続けた往年の社員なんかには、確かにこのマインドに刷り込まれている。とりわけ役職者は皆「こんな社員はいらない」という、減点方式でしか他人、あるいは自分を見ることしか出来ない。働き方改革だの、新しい生活様式だの言っても、雛鳥が最初に見たモノを親鳥だと信じて疑わないように、コアに根ざした理念は決して変わることはないのだと思う。
とにかく、研修ではこれらをずっと叫び続ける。接客7大用語においては、いちいち頭を下げる。頭を下げる、というよりは腰を90度曲げる。一般的にお辞儀の角度は45度程度かと思うが、この会社においては90度がデフォ。
こんな感じ。
N氏:いらっしゃいませ!
一同:いらっしゃいませ!(深い礼、以下略)
N氏:今の3倍の声で!!いらっしゃいませ!!
一同:いらっしゃいませ!!
N氏:もう一回!いらっしゃいませ!
一同:いらっしゃいませ!
N氏:今の10倍の声で!いらっしゃいませ!!
一同:いらっしゃいませ!!
N氏:かしこまりました!
一同:かしこまりました!
中略
一同:またお越しくださいませ!
N氏:それではもう一度最初から!いらっしゃいませ!!
一同:いらっしゃいませ!!
「今のN倍の声で」はN氏の常套句。そんな、何倍の声なんぞ出る訳もなく、勿論気合の話ではある訳だが、既に歩行訓練、スーパーラジオ体操で疲弊している社員にとっては、ただただ苦痛だったことだろう。この時私は、ほとんど口パクでやり過ごした。へへへ。
しかし口パクだけでやり過ごせるほど、この研修は甘くない。「1人ずつ、講師の前で接客7大用語を叫び、合格をもらうまで終わらない」という試練が待っていた。こう言えば、前述の「行動力本動作10カ条」の暗唱と似ているが、少し、いや大きく違う。肝心の合格がもらえないのだ、マジで、全然。こんな感じ
N氏:次に発表するもの、希望者挙手!!
一同:はい!!
N氏:それでは一番エモい、富美山君!
富美山:はい!!
富美山、列から離れ、小走りでN氏の前へ移動する。
富美山:(所属部署)富美山です!接客7大用語を発表します!いらっしゃいませ!(以下略)
N氏:礼の角度が90度無い時がありました。70点、不合格!!結果を皆さんに報告してください
富美山:はい!ありがとうございます!
後ろを向く
富美山:(所属部署)富美山です!70点で不合格でした!以上、よろしくお願いいたします!
一同:よろしくお願いいたします!
N氏:では次に発表するもの!希望者挙手!!
(中略)
N氏:両足の先が揃っていませんでした。65点、不合格!結果を皆さんに報告してください
同期A:はい!ありがとうございます。(振り返って)Aです!65点で不合格でした!以上、よろしくお願いいたします!
一同:よろしくお願いいたします!
こんな感じでさ、全く合格もらえねぇんだわ。他にも、指がちょっと曲がっていた、とか、表情が暗かったとか、イチャモン付けて不合格にする。というか、おそらくこの研修のコアは、合格をもらうことでは無い。不合格、というある種の「失態」を、大人数の前で大声で何度も叫ぶことだ。プライドをへし折り、こんなにも出来の悪い「弱い自分」を、雇って下さっている会社に感謝、忠誠を誓わせることだ。
まぁ忠誠を誓うどころか、入社3年以内に半数近くは退職するんですけどね。「こんな社員はいらない」のだから、しょうがないですね。ざいます。ご苦労様です。
あ、次が最終回です。