トラウマ新人研修備忘録② 希望者挙手!!


 研修全体を通して、ことあるごとに行うことがある。それが今回のテーマである「希望者挙手!!」だ。説明するより、実際のやりとりを文字に起こした方が早いだろう。



N氏:皆さん、おはようございます!!(大声)

一同:おはようございます!!(大声)


※以下、研修は基本全て大声で行われるので(大声)は割愛


N氏:それでは、これより研修を始めます!朝のスピーチをする者!!希望者挙手!!!

一同:はい!!!!


 全員が全力、全速力で手を挙げる。勿論、大声を出しながら。この時、「挙手しない」という選択肢は与えられていない。スピーチが苦手だろうが、なんだろうが、「希望者挙手」と言われたら絶対に手を挙げなければならない。1人でも手を挙げていなければ「もう一度言います、希望者挙手!!」だ。さっぱり意味がわからん。


N氏:では、一番手を挙げるのが速かった富美山君、お願いします!

富美山:はい!(所属部署)の富美山です!!私は、、、(以下略)。

    以上、よろしくお願いします!

一同:よろしくお願いします!


 「手を挙げるのが速かった」で選ばれることもあれば、「指先が一番綺麗に揃っていた」とか「姿勢が良い」とか「声が大きい」とか、その時々で基準は変わる。

 また、何か発言をした際、最後は必ず「以上、よろしくお願いします」。そして、それに対し一同も「よろしくお願いします」。これも決まりごと。


 この「希望者挙手」の厄介なのは、ただ順番を決める際にも行われるというところ。例えば、「今日の意気込みを発表する者、希望者挙手!」と言われたら、発表が終わる度に「次に発表する者、希望者挙手!」となる。既に発表を終えた物は勿論、次からの挙手は免除されるが、発表者に選ばれない限り、毎回全力の挙手を強いられるのだ。23人として、22回も。

 そしてこの「希望者挙手」で、一番最初に選ばれるのは、誉れなこととされている。「研修終わるまでに、一回は最初に選ばれるよう努力してください」とN氏は言っていた。『無能社員が偉そうに「選ぶ側」気取ってんじゃねぇよ』と私ではない誰かが呟いていたような気がする。容易に想像がつくと思うが、人が少なくなればなるほど、晒し上げのような、恥しく惨めな気持ちになる。残酷にも、これまで部活はおろか、人前で話したこともないような、大人しめな社員ほど残されてしまう。それでも涙ながらに必死で声を絞り出す姿が、今でも目に焼き付いている。本当に、ひでぇことしやがる。

 

 これが「希望者挙手」。各カリキュラムで毎度襲いくる試練。研修そのものではないが、これがトラウマになっている社員は多くいるはず。ちなみに私は8割、口パクでこなした。


 「グループ企業へ出向する者、希望者挙手!!」って言ってやればよかったな。


続く


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